治療について

アンローディング

Impella を用いた循環補助時には、全身血液循環の改善とともに、心室から直接脱血することで左心室の負荷が軽減されることが期待される。容積と圧力(左室拡張末期容積[LVEDV ]および左室拡張末期圧[ LVEDP ]として測定)の双方が減少し、最大冠血流量が増加する1

これらの変化によって、心筋の酸素需給バランスが改善される。全体として、Impella を用いることによって得られる上記の生理学的なベネフィットは、自己心機能を回復するのに最適な条件をもたらすと考えられる。 左心室の負荷を直接軽減するという Impella の作用は、機械的循環補助デバイスの中でも独特なものである 2

Human body model with circulation indication

末梢臓器灌流

末梢臓器は絶えず血液の供給を受けており、ガス交換や栄養の補給、不要物の排出などにより恒常性を維持している。そのため、末梢臓器灌流を維持することは、不可逆的な臓器障害と臓器不全の予防となる。 Impellaを用いることで、大動脈圧( AOP Aortic Pressure )、平均動脈圧 MAP Mean Arterial Pressure )、 Cardiac Power Output CPO )が上昇する。これらの変化により、末梢臓器灌流の改善が可能となる 3-4

自己心機能の回復

アビオメッドが重点を置いているのは、自己心機能の回復です。当社の製品は理論的には心筋を休ませるように機能する。自己心機能の回復は、患者さんの QOL にとって理想的な選択肢であるだけでなく、遠隔期までを含めた医療費を削減できる可能性もある 5

血行動態の安定

血行動態が安定していると、体内のすべての組織と器官に酸素を安定的に供給できる。患者の血行動態が安定していれば、心臓が血液を送り出す力が安定しているということである 6 。心臓や血管の血流を安定させて維持することは、心臓を含む臓器の正常な機能を支えるうえで重要である。  Impellaを用いることで、大動脈圧( AOP Aortic Pressure )、平均動脈圧 (MAP Mean Arterial Pressure) 、Cardiac Power Output (CPO)が上昇する。これらの変化により、血行動態の安定の改善が可能となる 3-4

補助循環の種類と歴史

循環補助とは「心不全に対して、一時的に心臓のポンプ機能を補助・代行し、心臓のポンプ失調の回復を待つ方法」である。

循環補助の第一選択は薬物治療であるが、心原性ショックを含む重症心不全が薬物治療抵抗性となった場合や、最大限の人工呼吸療法に対しても呼吸不全が治療抵抗性となった場合には、機械的補助循環(MCS : Mechanical Circulatory Support)や心臓移植が必要となる7

世界初の心臓移植は、1967年12月3日、南アフリカ・ケープタウンのグルート・スキュール病院の外科医、クリスチャン・バーナード医師(1922-2001)によって、交通事故で脳死状態となった20代女性の心臓を50代男性患者に移植したのが始まりである。

これが世界に心臓移植が広まるきっかけとなり、その後50年の間で薬剤も進化を遂げ心臓移植の成功率は飛躍的に高まった。

日本では、1999年に臓器移植法の改正とともに心臓移植が本格的に実施されるようになり、2020年には年間54件の心臓移植が行われた。一方で、日本の臓器提供件数(ドナ―数)は他国に比べて極めて少なく、100万人あたりの臓器提供者数は、スペイン48人、アメリカ33人のところ、日本は0.77人である8

そのため、日本の平均移植待機期間は平均4年5か月であり、左室補助人工心臓(LVAD)を装着している患者の約70%は4年以上の長期にわたって心臓移植待機をしなければならないのが現状である。

また、機械的補助循環法およびデバイスも急速な進歩を遂げている。

機械的補助循環は大きく分けて、①VAD(補助人工心臓)、②経皮的(カテーテル型)心臓ポンプ、③TAH(完全置換型人工心臓)、④IABP(大動脈バルーンパンピング)、⑤静-動脈パイバス(VAB)がある。心臓移植も一種の循環補助法と考えて良い。また、⑥ECMOと呼ばれる「重症呼吸不全に対して膜型肺を用いた体外循環により一時的に呼吸補助を行い、機能障害に陥った生体肺機能の回復を待つ方法」が挙げられる。ECMOに静-動脈バイパス(VAB)方式を用い経皮的カニュレーションにより実施した場合PCPSとも呼称され、この場合呼吸補助と同時に循環補助が可能である7

機械的補助循環の世界最初の成功例は1957年、心原性ショック症例に対してVABを行い生存例を得たStuckeyの報告である7-9

1962年、開胸操作を用いない経皮的左室デバイスによる臨床例がDennisらによって報告されたが4)、穿刺の技術的困難とリスクを克服することができず広く臨床的普及をみなかった。

1963年、Liottaにより臨床における最初のVAD補助が報告され11、その5年後の1968年にKantrowitzによってIABPの成功例が報告された12

1969年、TAHの臨床応用がLiotta-Cooleyによって報告され13、複数のTAHの臨床応用の試みが行われたが、長期成績が不良のため現在実用化に至っていない。

1980年、経皮的IABPが開発されたのに続き14、IABPと同じ手法により1983年にPhillipsによってECMO(PCPS)が開発された15。1990年、経皮的左室バイパス法としてカテーテル型のポンプが臨床導入され16、2003年にカテーテル型左室デバイスImpellaが実用化された17

以上のように補助循環の歴史を辿ると、TAH、VAD、IABPやVABなどの機械的補助循環法は従来、主として外科領域(あるいは外科医の援助の下で内科領域)で行われてきたが、1980年にBregmanによりSeldinger法を応用した経皮的挿入法が開発され、内科における心筋梗塞に起因する心原性ショック症例やPTCA施行時の血行動態維持にもIABPは積極的に用いられるようになった7

このように、心停止を含む心原性ショック症例に対し、迅速な補助循環の導入が可能である経皮的機械的補助循環法(IABP、PCPS、カテーテル型心臓ポンプ)が内科医によって実施可能となったことが、患者の生存率および予後の改善に大きく寄与することとなった。


監修:東京都健康長寿医療センター センター長 許俊鋭先生(補助人工心臓治療関連学会協議会 初代代表)

文献

  1. Remmelink M, Sjauw KD, Henriques JP, et al. Effects of mechanical left ventricular unloading by Impella on left ventricular dynamics in high risk and primary percutaneous coronary intervention patients. Catheter Cardiovasc Interv . 2010;75(2):187 194.
  2. Seyfarth M, Sibbing D, Bauer I, et al. A randomized clinical trial to evaluate the safety and efficacy of a percutaneous left ventricular assist device versus intra aortic balloon pumping for treatment of cardiogenic shock caused by myocardial infarction. JAm Coll Cardiol . 2008;52(19):1584 1588.
  3. Møller Helgestad OK, Poulsen C, Christiansen E, et al. Support with intra aortic balloon pump vs. Impella2.5 and blood flow to the heart, brain and kidneys. Int J Cardiol . 2015;178:153 158.
  4. Casassus F, Corre J, Leroux L, et al. The use of Impella 2.5 in severe refractory cardiogenic shock complicating an acute myocardial infarction. J Interv Cardiol . 2015;28(1):41 50.
  5. Vigilance DW, Oz MC. Strategies for management of postcardiotomy cardiogenic shock following valvular heart surgery. Adv Cardiol . 2004;41:140 149.
  6. What is hemodynamics. International Hemodynamic Society (IHS) Web site. http://www.hemodynamicsociety.org/hemodyn.html. Accessed August 4, 2016
  7. 許俊鋭 ほか 補助人工心臓 治療チーム 完全ガイド 2018(メジカルビュー社)より抜粋および筆者改変
  8. IRODaT(DTI Foundation) 日本を除く2018年
  9. Stuckey JH. Newman MM. Dennis C. et al: The use of the heart-lung machine in selected cases of acute myocardial infarction. Surg Forum 8:341:344:1957
  10. Dennis C, Hall DP, Moreno JR, et al: Left Atrial cannulation without thoracotomy for total left heart bypass. Acta Chir Scand 123:267-279, 1962
  11. Liotta d. Hall CW, Henly WS, et al: Prolonged assisted circulation during and after cardiac or aortic surgery Prolonged partial left ventricular bypass by means of intracorporeal circulation. Am J Cardiol 12:399:1963
  12. Kantrowitz A, Tjonneland S, Freed PS, et al: Initial clinical experience with intra-aortic balloon pumping in cardiogenic shock. JAMA 203:135, 1968
  13. Cooley DA, Liotta D, Hallman GL, et al: Orthotopic cardiac prosthesis for two-staged cardiac replacement. Am J Cardiol 24:723-730, 1969
  14. Bregman D. Caserella WJ: Percutaneous intra-aortic balloon pumping: Initial experience. Ann Thorac Surg 29:153-155, 1980
  15. Phillips SJ. Ballentine B, Slonine D, et al: Percutaneous initiation of cardiopulmonary bypass. Ann Thorac Surg 36:223-225, 1983
  16. Frazier OH, Wampler RK, Duncan JM, et al: First human use of the Hemopump, a catheter-mounted ventricular assist device. Ann Thorac Surg 49:299-304, 1990
  17. Meyns B, Dens J, Sergeant P, et al: Initial experiences with the Impella device in patients with cardiogenic shock-Impella support for cardiogenic shock. Thorac Cardiovasc Surg 51, 312-317, 2003

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